『公園』


 茜ちゃんは赤い服が好きです。お気に入りの水玉赤色ワンピースを着て、今日も公園に
やってきました。茜ちゃんのお母さんは離れたベンチで、近所のおばさんとお話をしていま
す。しかし茜ちゃんと同い年の友達はここにはいません。みんな家でテレビゲームをやっ
たりおもちゃで遊んでいるのだそうです。でも茜ちゃんは、ゲームやオモチャには興味が
ありません。お母さんと、大好きなこの公園に遊びにくるのが何よりもの楽しみだったの
です。


 茜ちゃんはすずめが好きです。いつもの公園にたくさんいます。餌をあげるとびくびくしな
がら寄ってきて、辺りをきょろきょろしながらすごいスピードで餌を食べると、飛ぶように逃
げていくところが可愛くて仕方がありません。両足でぴょんぴょん歩くときのスピードが早
くて、茜ちゃんもすずめのようになりたいと思いました。


 茜ちゃんは鳩が好きです。昔はすすめが好きだったけれど、気がつくとすずめを見かけ
なくなってしまいました。いつか手の上に乗せたいという願いは叶いませんでした。現在
この公園を占拠しているのは、大量の鳩です。それからというものの茜ちゃんは仕方なく
鳩を眺めていたのだけれど、いつの間にか鳩に夢中になっていました。首を振って歩く姿。
クルックーという誇らしげな鳴き声。餌に貪欲なその姿。茜ちゃんは鳩に強い憧れを持ち
ました。


 鳩を見かけなくなったのは、それからしばらくした冬のことでした。餌を持つ手や肩にま
で群がってきた鳩たちはもうおらず、現在この公園を占拠しているのは、真っ黒なカラス
です。カラスには近づくんじゃない。目を突かれるぞと誰かに聞いた覚えがありますが、
茜ちゃんはそんな悪者カラスが大好きになってしまいました。誰にも頼らず、可愛さもア
ピールせず、一人で生きていくところがカッコイイと思いました。茜ちゃんもカラスのように
なりたいと強く思いました。


 それから十年の月日が経ちました。あの頃あったブランコや滑り台はもうすっかり古くな
り、近所のおばさんや子供たちもあまり近寄らなくなり、すずめや鳩やカラスももうここには
いなくなってしまいました。現在この公園を占拠しているのは、大きくなった茜ちゃんです。
たくさんのお友達を連れて、毎日夜中に集合します。二人ずつのペアになってバイクに乗
り込み、けたたましいエンジン音を町中に響かせます。やがて茜ちゃんの赤いバイクを先
頭にして、次々と公園を出発します。そして朝方、もう一度ここへ帰ってきて集会を行うの
が毎日の日課です。


 茜ちゃんはこの公園がとても大好きなのです。