『君と会いたかった。』

           6畳一間の和室。
           いかにも男の一人暮らしといった感じの家具の少なさ。
           しかし意外にも部屋は奇麗に片付いている。
           朝。男が寝ている。
           見た目は普通の若者だが、彼には他の人と違うところが一つある。
           それは、彼が多重人格者であるということだ。
           今のところ彼の性格は4つ。
           今の名を「あきら」という。
           あきらは活発的で明るい奴。基本的人格であると思われる。
           突然、目覚ましが鳴る。
           反射的にとめる、あきら。が、そのまま停止したように眠っている。
           しばしの間。
           しかし突然目を覚まし、時計を掴む。すでに遅刻決定。

あきら     うおーーー!!

           バイト先の店長に電話。

あきら     もしもし!はい!すいません、今行きます!

           急いで準備をする。服着たりいろいろ。
           そしてようやく準備完了。
           行こうとするが立ち止まって。

あきら     いくぜ!

           飛び出していくあきら。

           映像。
           映像終わる。

           日が暮れかけている。
           男がいる。今の名を「かずとし」という。
           彼の記憶には、最近外に出たという記憶がない。
           …と、これからやってくるリンゴはそう思っている。
           かずとしは最初に生まれた人格で、あきらと入れ替わるのはこの
           かずとしである場合が多い。
           くつろいでいるかずとし。
           そこへ呼び鈴。

かずとし    はい。

           ドアを開けるかずとし。
           そこにリンゴが立っている。
           リンゴは、自宅療養をしている男の担当医で、毎日この時間になる    
           と病院からやってくるのだ。
           医療道具の他に、大量の食材の入ったスーパーの買い物袋をぶら下  
           げている。

リンゴ     こんにちは。
かずとし    こんにちは。どうぞ。
リンゴ     …お邪魔します。

           リンゴを中に入れるかずとし。

リンゴ     具合はどうですか?
かずとし    ああ、大分良いよ。
リンゴ     よかった。

           検査の道具をだすリンゴ。

リンゴ     最近はずっと落ち着いてますもんね。発作も起きてないでしょ?  
かずとし    まずい薬を飲んでるからね。
リンゴ     えらいえらい。

           検査をしだすリンゴ。

リンゴ     でも暇じゃないですか?外にも出れないし。病院に来れば友達もできるし、 
         他の看護婦もたくさんいるから楽しいと思いますよ。
かずとし    うん…
リンゴ     ………
かずとし    ありがと、その気持ちだけで充分だよ。
リンゴ     もう、いつもそればっかですね。病院に行きたくない理由でもあるんですか?
かずとし    …………
リンゴ     あ…イヤだから行かないんですよね。はい、いいですよ。

           検査終える。

リンゴ     さて、ご飯でも作りますか。食べてないでしょう?
かずとし    うん。
リンゴ     なにがいいですか?
かずとし    ハンバーグ。
リンゴ     だと思いました。

           そう言うとリンゴは、スーパーの袋からハンバーグに使う食材を探し始めた。

かずとし    …なんでいつもそんなに買ってくるの?
リンゴ     え?あ、何を注文されてもいいようにね。
かずとし    残ったのはどうしてるの?
リンゴ     私が食べてます。
かずとし    ……
リンゴ     こう見えても大食らいなんで大丈夫ですよ。お金も支給されてますから。
かずとし    リンゴちゃん。
リンゴ     はい。
かずとし    僕、病気なんだ。
リンゴ     ……知ってます。
かずとし    なんの病気か知ってる?
リンゴ     ………
かずとし    知ってるならいい加減教えて欲しいんだ。自分の病名くらい知っていても  
         いいだろう。
リンゴ     ………
かずとし    なんで黙ってるんだよ。どうして病院に行かないと思う?昔病院でなんて
         言われたと思う?それは隔離病棟に…
リンゴ     かずとしさん!!
かずとし    …………
リンゴ     いいんですよ、何も考えないで。この生活を続けていれば絶対に直るんですから。
かずとし    本当に?
リンゴ     はい。
かずとし    信じていい?
リンゴ     はい。
かずとし    …………
リンゴ     元気出しましょうよ!
かずとし    …うん……
リンゴ     …そうそう、聞いてくださいよ!また病院の話なんですけど、今日は友達
         が薬間違えたんですよ!
かずとし    薬?
リンゴ     患者さん苦しんじゃって、家族には問い詰められるし、最近よくある病院
         の不祥事って、院長とか大慌てで。
かずとし    薬…
リンゴ     でも結局無事で済んだから隠密に解決されたみたいですけどね。…あれ?
         おもしろくないですか?
かずとし    …いや、僕の飲んでる薬は大丈夫ですか?
リンゴ     あ。もちろんですよ。
かずとし    でも間違えたんでしょ?
リンゴ     それはたまたまで。
かずとし    僕の薬と入れ替わったんじゃないですか!?
リンゴ     違います。
かずとし    僕、死ぬんですかー!?
リンゴ     死にません!
かずとし    その人は偶然助かったからいいものの、偶然がそう何度も続くわけがない!
リンゴ     違うんです、さっきの話は…
かずとし    うわああ!助けてええ!!
リンゴ     かずとしさん!

           ドアの方へ駆け寄る、かずとし。
           足をかけるリンゴ。思いっきりこけるかずとし。

リンゴ     あ!!

           駆け寄るリンゴ。

リンゴ     かずとしさん!大丈夫ですか!?
まなぶ     いい匂い…
リンゴ     え?
まなぶ     リンゴちゃんの匂いだ…
リンゴ     …まなぶ君?

           今の衝撃で、「まなぶ」になったようだ。
           まなぶはリンゴのことが好きなのだ。
           リンゴはまなぶのことをほとんど理解していない。

まなぶ     リンゴちゃん…会いに来てくれたんだね!!

           リンゴに抱きつこうとするまなぶ。
           そこにあるスリッパで思いっ切り頭を叩くリンゴ。
           男、あきらになる。

あきら     …………
リンゴ     …………
あきら     痛い…
リンゴ     …………
あきら     あれ?なんで俺、家に居るんだ?
リンゴ     …あきら?
あきら     ああ。リンゴ、どうした?
リンゴ     …なんでもない!
あきら     あ、確か俺、朝外に出たんだよな。
リンゴ     ちょっと座って。
あきら     あ?

           座り直すリンゴ。

リンゴ     言ってるでしょ。
あきら     なにが?
リンゴ     頭に衝撃を与えちゃダメだって!今日どこかで…
あきら     あ、ああ。ぶつけた。電車のつり革で。
リンゴ     またそんな情け無い物で。
あきら     また人格変わってた?
リンゴ     だから怒ってるんでしょ。
あきら     怒ってたのか?
リンゴ     見ればわかるでしょ。
あきら     わかんねぇよ。
リンゴ     わかりなさいよ、長いつきあいなんだから。
あきら     そんなこと言われたって…
リンゴ     もう!前にも増して人格が変わりやすくなってる。今分かってるのが4つ。
         自宅療養じゃとっくに限界が来てるんだよ。
あきら     だって病院行ったら隔離されるんだろ?つまんねぇよ。
リンゴ     そんなこと言ってるから、どんどんひどくなっていくんでしょ。
あきら     本人の意識が残ってる場合、本人又は家族の同意がなければ精神病院に入
         院させることはできない。俺に家族は居ないし、俺も同意しない。
         いいじゃねぇか、このままで。
リンゴ     わかってないよ。
あきら     ………
リンゴ     私はただあなたに早く直って欲しいだけなのに。
あきら     お前もわかってないよ。
リンゴ     ………
あきら     俺はこの生活けっこう気に入ってるんだ。
リンゴ     …知らないからね。
あきら     けっこうです。
リンゴ     分からず屋。
あきら     ブース。
リンゴ     なに!?
あきら     うそうそ。
リンゴ     …………
あきら     あ、また怒った?
リンゴ     …早く直ってよね。
あきら     …ああ。
リンゴ     ……さて、無事あきらに戻ったことだし。
あきら     なに、帰んのか?
リンゴ     私は仕事中なの。他にも担当の患者が居るんだからあなただけにかまって
         られないの。
あきら     そーですか。
リンゴ     それと、あなたの場合だけは特別に外に出るの許してるけど、そんなに遠
         出しちゃダメだからね。
あきら     はいはい。
リンゴ     だいたい電車に乗ってどこ行こうとしたの?
あきら     バイトに…

           はっとするあきら。

リンゴ     今なんて言った?
あきら     あ、いや、その…
リンゴ     バイト?バイトやってんの?どこで?なんのバイト?
あきら     ほら、帰らないといけないんだろ?
リンゴ     誰がバイトしていいって言った?なんのバイトしてるの!
あきら     ……古着屋です…
リンゴ     古着屋?なんでそんなところで?
あきら     わかんねぇよ。
リンゴ     わかんない?
あきら     だから!バイトをしたかったのは確かだよ。普通の生活を送ってみたかっ
         たからさ。そこの古着屋は前からよく行ってた店なんだけど…そこの店員
         と仲良くなって…
リンゴ     バイトをはじめたわけね。
あきら     たぶん。
リンゴ     ん?
あきら     いつの間にか決定してた。
リンゴ     なにそれ。
あきら     まぁそういうわけで。
リンゴ     話をそらさない。
あきら     いいじゃんか別に!
リンゴ     …逆切れ…
2 人     ………… 

           あきら、自分の頭を叩く。
           「しんいちろう」になる。

リンゴ     あっ!
しんいちろう  …………
リンゴ     逃げたな…
しんいちろう  …………
リンゴ     えっと…大丈夫ですか?

           まったく喋らない、しんいちろう。

リンゴ     そうだ、ご飯作んなきゃね。
しんいちろう  …………
リンゴ     しんいちろう君!

           まったく喋らないしんいちろう。

リンゴ     やったぁ!当たったぁ!
2 人     …………

           二人、しばしの沈黙が続く。
           我慢できなくなったリンゴ。

リンゴ     じゃあまた明日来るから。家を出ちゃダメだからね。

           頭を抱えながらリンゴ帰っていく。

           映像。
           「翌日…事件は起こりました。」
           舞台には誰もいない。
           リンゴやってくる。
           呼び鈴。
           呼び鈴連射。
           反応がないことに不審がるリンゴ。
           ドアを調べると、鍵がかかっていない。
           中に入るリンゴ。誰もいないことに気づく。
           電話の横に手帳がある。バイト先の住所とか書いてあるようだ。

リンゴ     あのバカ…

           外に飛び出していくリンゴ。
           映像で、タイトルでる。
           映像終わる。

           男やってくる。
           今の性格をあきら。
           場所はバイト先の店の前。

あきら     よし、ついたぁ。昨日さぼっちまったからなぁ。店長怒ってるかなぁ。

           店の様子を伺っているあきら。

大 和     何やってるんだ?

           後ろから、バイト仲間の大和やってくる。

あきら     おわぁ!びっくりした!
大 和     思いっ切り怪しいぞ、お前。
あきら     脅かさないでくださいよ。
大 和     お前が勝手に驚いたんだろ。
あきら     …店長います?
大 和     今ちょっとでてるよ。どうした?
あきら     いや、昨日すいません。
大 和     なにが?
あきら     だから、バイトさぼっちゃって。
大 和     …なに言ってんだ?
あきら     え?だから…
大 和     さぼったって?昨日は一緒に働いてたじゃないか。
あきら     …働いた?
大 和     ああ。
あきら     …へぇー…
大 和     変だぞ、お前。
あきら     あ、ごめんなさい。そうですよね、働いてましたよね。やっぱあれですか、
         普段通りじゃなかったですか?
大 和     …そうだな、変だったかも。
あきら     やっぱり…
大 和     いつもよりやる気があったな。
あきら     ………
大 和     店長も褒めてたぞ。普段からあのくらいやってくれれば、すぐに給料上げ
         てやるのにな。
あきら     大和さん。
大 和     ん?
あきら     すいません。俺、帰ります。
大 和     あ、おい!

           あきら、走り去る。
           続いてリンゴやってくる。

リンゴ     走るなって!!すいません、あの子。
大 和     はい。

           大和の顔を見て、リンゴの動きが止まる。

リンゴ     ……あ、いえ…

           リンゴ、走り去る。

大 和     なんなんだ、一体…
 
           大和、二人を追いかける。
           あきら登場。

あきら     どうしたんだ…?
リンゴ     待ちなさい!

           リンゴ、追いつく。

あきら     リンゴ!
リンゴ     バカ!走ったら危険でしょ!

           軽くあきらの頭を叩くリンゴ。

リンゴ     あ。

           あきら、まなぶになる。

まなぶ     リンゴちゃん!
リンゴ     あんたは出てこなくていいから!

           まなぶの頭を叩くリンゴ。
           かずとしになる。

かずとし    …あ…リンゴさん。僕は…何してたんだ?
リンゴ     かずとし君?
かずとし    はい。あれ?ここは、外?
リンゴ     ……そうですよ、この際仕方ない。
かずとし    え?
リンゴ     ううん、どうです?久しぶりに外に出た気分は?
かずとし    ……うれしい。
リンゴ     そう。
かずとし    なんで外に出してくれたの?
リンゴ     え、ちょっとね。たまには外に出た方が健康だと思ったから。
かずとし    じゃあこれからも外に出してくれる?
リンゴ     それはあなた次第でしょ。

           そこへ大和やってくる。

大 和     どうした?
かずとし    あ、大和さん。
リンゴ     え?
大 和     もうバイト開始の時間だろ?
かずとし    はい。
リンゴ     あ、ごめんなさい。私、この子の保護者なんですけど。
大 和     保護者?
リンゴ     はい。今日この子体調悪くて、家で寝てなきゃいけない身体なんです。申
         し訳ないですけど休ませていただけませんか?
かずとし    ちょっと、リンゴさん…

           リンゴ、かずとしを口止めする。

大 和     …わかりました、そういうことなら。早く元気になって下さい。
リンゴ     あ、はい…ありがとうございます。
大 和     かずとし、早く身体直せよ。では。
2 人     …………
リンゴ     どういうこと?
かずとし    ちょっとリンゴさん!
リンゴ     なに?
かずとし    なにじゃないよ。僕なら元気だからバイトに…
リンゴ     バイトに?何?行こうって言うの?私の前で?
かずとし    いや…
リンゴ     あなたは病人なの。すぐ直るって言ったけど、それは家でじっとしていれ
         ばの話し。こんなことしててまた悪化したら知らないからね。
かずとし    …ごめん。
リンゴ     あー、でも待って。
かずとし    え?
リンゴ     なんかわけわかんない。
かずとし    なにが?
リンゴ     ちょっと黙ってて。
かずとし    …初めてだ。
リンゴ     え?
かずとし    敬語使ってないリンゴさん。
リンゴ     あ…
かずとし    普段もそう喋って欲しいな。
リンゴ     ……かぶってきてる?
かずとし    え?
リンゴ     いや、なんでもない。
かずとし    リンゴさん。
リンゴ     …なに?
かずとし    さっきの人、大和さんっていうんだ。
リンゴ     あ、かずとし君がよく話してる人?あの人なんだ。へぇー。
かずとし    おかしい?
リンゴ     ううん。
かずとし    かっこいいでしょ?
リンゴ     そうね。
かずとし    優しいし、お金持ってるし、あんな人もいるんだなって…
リンゴ     …………
かずとし    勘違いしないでくださいよ。僕は只憧れてるだけで、別に…
リンゴ     分かってるわよ。じゃない、分かっていますよ。
かずとし    あ、また敬語。
リンゴ     いいの、これは一応礼儀としてね。
かずとし    ちぇっ。
リンゴ     じゃ、帰りましょうか。
かずとし    はい。

           言っておきながら動かないリンゴ。

リンゴ     …大和…
かずとし    はい。
リンゴ     え?
かずとし    え?いえ。
リンゴ     ……じゃあ、あの人…
かずとし    知り合い?
リンゴ     …ううん、何処かで会ったような気がするだけ。ま、どうでもいいや。さ、
         行きましょう。
かずとし    なに言ってるの。高校の同級生でしょ。
リンゴ     え?
かずとし    覚えてるよ、高校3年の夏、君が僕に告白してくれたこと。
リンゴ     …かずとし君?

           だんだん、第5の人格・ヤマトになっていくかずとし。

ヤマト     かずとし?誰それ?
リンゴ     …………
ヤマト     どうしたんだよ、リンゴ。今日学校さぼってきたんだろ?
リンゴ     え…?
ヤマト     実は俺もなんだよ。そんな顔するなよ、いつものことじゃねえか。
リンゴ     大和…?
ヤマト     なんだよ。
リンゴ     本当に?
ヤマト     見れば分かるだろ?
リンゴ     そんな…
ヤマト     さて、今日はどこ行く?

           ヤマトの頭を叩くリンゴ。あきらになる。

あきら     痛い…
リンゴ     ……会いたかった。
あきら     あ?
リンゴ     ずっと…
あきら     おい、大丈夫か?
リンゴ     あきら。
あきら     ん?
リンゴ     帰ろう。
あきら     あ、ああ…でもよ。
リンゴ     いいから。
あきら     …ああ。   

           あきら去る。

リンゴ     第5の人格か…

           暗転。
           回想。
           高校3年。
           一瞬、映像。
           チャイムの音が鳴る。
           大和やってくる。

リンゴ     大和ー!

           リンゴやってくる。

リンゴ     ちょっと待ちなさいよ!
大 和     なんだよ。
リンゴ     なんだよじゃないでしょ、いつもいつも掃除さぼってさ。私たちの班がい
         つも一番遅くなるんだから。 
大 和     イヤなんだよ、掃除。
リンゴ     イヤって、好き嫌いの問題じゃないでしょ。
大 和     じゃあ、お前は好きなのか?
リンゴ     好きよ。女の子だもん。
大 和     うわ…
リンゴ     うわ…って何よ。大体ね…
大 和     お前さ、どうして俺にばっか言うんだよ。他にもさぼってる奴いるだろ。
リンゴ     どうしてって…
大 和     そうやっていつも俺を追いかけてるから掃除だって終わんねえんだろ?
リンゴ     あんた人のせいにして…
大 和     じゃあ理由でもあるのか?
リンゴ     ………
大 和     いいじゃんか、先生に怒られるの俺なんだし。
リンゴ     バカ。
大 和     え?
リンゴ     鈍感。死んじゃえ。
大 和     なんだよ。
リンゴ     そんなの一緒に掃除したいからに決まってるじゃない。
大 和     …………
リンゴ     …………

           間

リンゴ     好きだよ。
大 和     …オレモ。

           テープが巻き戻るような音。
           気がつくとリンゴと男が寝ている。
           リンゴ起きる。男を見る。

リンゴ     ……寝ちゃったんだ。

           少し考え事。

リンゴ     私がしっかりしないとね。

           男、動く。

リンゴ     とにかく全員のコンプレックスみたいなものを取り除けば、直っていくは
         ずなんだけどな…

           男(まなぶ)起きる。

リンゴ     あ、起きた?
まなぶ     おはよう。リンゴちゃん、隣で添い寝しててくれたの?
リンゴ     え?まぁね。

           うれしそうな、まなぶ。

リンゴ     まなぶ君。
まなぶ     なに?あれ、今日はぶたないの?
リンゴ     え?
まなぶ     だってリンゴちゃん、僕が起きるとすぐぶつじゃん。すると気絶しちゃっ
         て気がつくともう次の日とかになってる。
リンゴ     それはいつもまなぶ君が抱きついてきたりするからでしょ。
まなぶ     駄目なの?
リンゴ     当たり前でしょ。
まなぶ     そっか…
リンゴ     …ねぇ、私まなぶ君のことよく知らないんだけど教えてくれないかな?
まなぶ     僕のこと知りたいの?
リンゴ     教えてくれる?
まなぶ     もちろん!えっと、まなぶです。10歳です。
リンゴ     は?
まなぶ     え?何?
リンゴ     10歳?
まなぶ     うん。
リンゴ     ふーん…

           まじまじと見るリンゴ。

まなぶ     で…
リンゴ     10歳。
まなぶ     本当は学校行かないといけないんだけど、休んでるんだ。
リンゴ     どうして?
まなぶ     登校拒否。
リンゴ     ……
まなぶ     学校行ったってつまんないんだ。友達いないし。いじめられるし。だった
ら家でリンゴちゃんと喋ってた方が楽しいもん。
リンゴ     ………
まなぶ     でもこんなにちゃんと喋ったのって初めてだよね。
リンゴ     …ごめんね。
まなぶ     いいよ、僕がいけない事したから叩くんでしょ?じゃあ、僕が悪いんだ。
         学校の先生なんてね、僕が何もしてないのに叩くんだよ。酷いでしょ?
         クラスの子だって叩く子もいるし、無視する子もいる。
リンゴ     まなぶ君。今日はゆっくり話そう。
まなぶ     …うん!

           微笑む二人。

まなぶ     一日って短い…でも今日はすごく長く感じる。
リンゴ     うん。
まなぶ     会いたかった。
リンゴ     え?
まなぶ     ありがとう。
リンゴ     まなぶ君?

           目を閉じるまなぶ。

リンゴ     ねえ、まなぶ君!?

           目を開くとあきらになっていた。

あきら     …なに見てんだよ?
リンゴ     …………
あきら     あれ、家じゃねぇか。バイトは?
リンゴ     あきら?
あきら     ああ。
リンゴ     …………
あきら     …どうした?
リンゴ     私とずっと喋りたかったってこと?なによそれ…たったあれだけで満足なの?
あきら     リンゴ?
リンゴ     もっと早く言ってくれたらいくらでも話してあげたのに。
あきら     ………
リンゴ     あんたなんであんな人格生み出すわけ?可哀想じゃない。
あきら     何わけわかんねぇこと言ってるんだよ。
リンゴ     大体あんたいつも私と喋ってるのに、なんであんな人格になるわけ?
あきら     知らねーよ!
リンゴ     ……ごめん。
あきら     少し落ちつけ。どうした?
リンゴ     …多分、人格一つ消えた。
あきら     マジで?よっしゃ!
リンゴ     私今まで、あきら以外の人のことなんて考えてあげもしなかった。ただ早
         く消えればって…
あきら     ……
リンゴ     後味悪いけど…まなぶ君にとってはあれで良かったのかな…
あきら     まなぶ君?誰だよ、それ?
リンゴ     …10歳の男の子。
あきら     小学生?
リンゴ     …あきら、ちょっと「10歳です」って言ってみて。
あきら     なんでだよ。
リンゴ     いいから。
あきら     言えるか、そんなこと。

           笑うリンゴ。

リンゴ     絶対直してあげるから。
あきら     なんだよ、改まって。
リンゴ     いいでしょ。
あきら     いいよ。病院には行かないけどな。
リンゴ     もう。あ、もうこんな時間だ…
あきら     泊まってくか?
リンゴ     これから病院に戻らないといけないの。
あきら     そーですか。
リンゴ     じゃあね。
あきら     ああ。

           ちょっと映像。
           「翌日…事件は進展しました。」
           男、しんいちろうになっている。
           趣味なのか、モデルガンをいじっている。
           それに加えてそういう関係の本もある。
           そこへリンゴやってくる。
           呼び鈴。
           無視をしているしんいちろう。
           呼び鈴連射。
           反応が無いことに不審がるリンゴ。
           リンゴ、ドアを調べると鍵がかかっていない。
           リンゴ入ってくる。
           誰もいないと思っていたのにしんいちろうがいて驚くリンゴ。

リンゴ     わあ!なんだ、いるんなら返事くらいしてよ。

           しんいちろう、鉄砲をリンゴに向けている。

リンゴ     ちょっと、何のマネ?

           しんいちろう、リンゴだと気づいて鉄砲を引っ込める。

リンゴ     …しんいちろう君?
しんいちろう  …………

           リンゴ、大きく深呼吸。

リンゴ     よし、次はしんいちろう君だ…
しんいちろう  …………
リンゴ     ねぇ、それってモデルガンでしょ?そんなの持ってたんだ?
しんいちろう  …………
リンゴ     なんでいつも喋ってくれないの?お話ししようよ。

           しんいちろう、リンゴに鉄砲を向ける。

リンゴ     …私のことキライ?

           首を振るしんいちろう。

リンゴ     しんいちろう君が喋ってくれたのって初めて会ったとき、名前を教えてく
         れただけだよね。もっといろいろ教えて欲しいなあ。
しんいちろう  …………
リンゴ     ねぇ、しんいちろう君は今いくつなの?
しんいちろう  …46。
リンゴ     ……へぇー…46…?年上なんだ…
しんいちろう  …………
リンゴ     モデルガンとか好きなの?

           頷くしんいちろう。

リンゴ     ふーん…へぇー…

           だんだん辛くなってくるリンゴ。
           しんいちろうの頭を叩く。
           あきらになる。

あきら     痛い。
リンゴ     誰?
あきら     人の頭を殴って「誰?」はないだろ!
リンゴ     あきら!もう、ちょっと!!
あきら     なんだよ!
リンゴ     なによ、あの絡みにくいキャラは!
あきら     は?
リンゴ     少しは喋りなさいよ。
あきら     誰に言ってるんだよ。
リンゴ     しんいちろう君よ。
あきら     じゃあ俺に言うなよ。
リンゴ     あんたでしょ。
あきら     あん?
リンゴ     あんたから言ってよ。
あきら     どうやって。
リンゴ     考えなさいよ。
あきら     お前が考えろよ。
リンゴ     しかも46歳。
あきら     は?
リンゴ     おっさんじゃない。
あきら     46歳?俺が?
リンゴ     しんいちろう君。
あきら     46歳に君はないだろ。
リンゴ     …そうね…
あきら     …っていうか、ちょっとショック…
2 人     …………
あきら     やっぱ老けてた?
リンゴ     どうすればいいのかな。
あきら     老けてたかって?
リンゴ     見た目は変わらないの。内面は話してみないと分からない。
あきら     じゃあ話してくれよ。
リンゴ     話したくても話してくれないの。
あきら     がんばって話せよ。
リンゴ     あんたが話しなさいよ。
2 人     …………
あきら     がんばる。
リンゴ     え?
あきら     しんいちろうだっけ?
リンゴ     そうだけど…どうする気?

           集中するあきら。

あきら     おい。しんいちろう。
しんいちろう  …………
あきら     おい。無視すんな。
しんいちろう  …………
あきら     おい!
しんいちろう  …………
あきら     ダメだ……?
しんいちろう  …何?
あきら     あ、お前がしんいちろうか?
しんいちろう  …そうだ。
あきら     あのさ、この姉ちゃんと喋ってくれないか?
しんいちろう  …何を?
あきら     質問に答えるだけでいいからさ。
しんいちろう  ……分かった。
あきら     ……だってさ。
リンゴ     ちょっと、何やったの?
あきら     喋ったんだよ、しんいちろうだっけ?
リンゴ     あんた…
あきら     あ、46歳だっけ…タメ口きいちった。
リンゴ     そんなことできたの?
あきら     なにが?
リンゴ     他の人格と喋ることができたの?
あきら     初めてやったんだよ。お前がやれって言ったんだろ?
リンゴ     そうだけど。
あきら     何か不満か?
リンゴ     …ううん。ただ…
あきら     じゃあ、任せたぜ。

           そう言って自分の頭を叩き、しんいちろうになった。

しんいちろう  ……
リンゴ     しんいちろう君?
しんいちろう  …そうです。
リンゴ     完全に人格を操作してる…
しんいちろう  …………
リンゴ     病気が治りかけてるってこと?……だといいんだけどな…
しんいちろう  何を話せばいいのですか?
リンゴ     …あのさ、なにか悩み事とかない?ほら、あなたの病気を治すためにはい
ろいろと知っておかないといけないからさ。悩み事がなければ欲しい物と
か、やりたい こととか…
しんいちろう  やりたいこと…
リンゴ     あるんだ?なに?
しんいちろう  …世界征服。
リンゴ     …………

           しんいちろうの頭を叩くリンゴ。
           あきらになる。

リンゴ     あきら!
あきら     痛てぇな!
リンゴ     あんたバカじゃないの!
あきら     は?
リンゴ     もうちょっとまともな悩みはないわけ!?
あきら     なに言ってんだよ!

           あきらの頭を叩くリンゴ。
           しんいちろうになる。

リンゴ     へぇー、そうなんだ。冗談とかじゃないよね?
しんいちろう  冗談に聞こえますか?
リンゴ     聞こえないところが恐いんだけど…ううん、なんでもない。世界征服かあ。
         また壮大な計画ねぇ。具体的にはどうするつもりなの?
しんいちろう  まずは仲間を集める。
リンゴ     なるほど。
しんいちろう  二人じゃ何もできませんからね。
リンゴ     え、二人?…もしかして…私?
しんいちろう  他に誰がいるんですか?
リンゴ     …ですよね…
しんいちろう  しー!!
リンゴ     はい?
しんいちろう  気配を感じた!アメリカのスパイか!
リンゴ     思い過ごしだと思いますよ。
しんいちろう  何故わかるのです?
リンゴ     ほら、ここ分かり辛い場所だから、そう簡単にはばれないかなと思って。
しんいちろう  アメリカをなめてはいけない。
リンゴ     はい。
しんいちろう  しかし君は優秀な部下のようですね。私の眼に狂いはなかった。
リンゴ     どうも。
しんいちろう  では軍師に問う。
リンゴ     軍師。
しんいちろう  私が世界を手に入れるにはどうすればいいのですか?
リンゴ     …そう言われてもな…
しんいちろう  じっくり考えなさい。

           じっくり考えるリンゴ。

リンゴ     あ、じゃあこういうのはどうですか?
しんいちろう  言ってみなさい。
リンゴ     昔、好きだったゲームがあるんですよ。大戦略っていうんですけど、戦艦
         とかで各国と戦うんです。そうすればお金もかからないし、戦略次第でい
         くらでも…
しんいちろう  馬鹿にしてるのですか?
リンゴ     じゃあどうするっていうんですか!
しんいちろう  まずこの国をのっとろう。
リンゴ     どうやって?
しんいちろう  それを考えるのがあなたの仕事でしょう。
リンゴ     ……
しんいちろう  まあいい、テレビをつけてください。この国のことをもっと知る必要があ
         るようです。

           リンゴ、テレビをつける。
           やっていたのは笑点。

しんいちろう  なんですかこれは!
リンゴ     笑点です。
しんいちろう  なんだこいつの顔は?バケモノか!
リンゴ     円楽さんを馬鹿にしないでください。
しんいちろう  こいつは手強そうだ。こいつは!?
リンゴ     菊蔵さんですか?
しんいちろう  こいつも手強そうだ。
リンゴ     いや、そうでもないですよ。

           二人、笑点に見入る。

リンゴ     あはははは。

           しんいちろう、テレビを消す。

リンゴ     あー、いいところだったのに!
しんいちろう  ……
リンゴ     ああ…そうですよね。それどころじゃなかったですよね。どうしましょう?
しんいちろう  …大戦略。でしたっけ?ゲームの話。
リンゴ     はい。興味あるんですか?
しんいちろう  嬉しそうですね。
リンゴ     やってみません?小学校の頃すごく好きだったんです。今やったらつまん
         ないかもしれないけど。昔のだから。
しんいちろう  持ってるんですか?今でも。
リンゴ     あー…実家に帰れば多分。
しんいちろう  ちゃんと起動するのですか?
リンゴ     古いですけど、平気なんじゃないですか?
しんいちろう  ファミコンでしょう?
リンゴ     …ファミコン知ってるんですか?
しんいちろう  ファミコンくらい知ってます。
リンゴ     …実はやったことあるんじゃないですか?
しんいちろう  ない。
リンゴ     あ、もしかしてあきら持ってるかも!押入れ探させてもらってもいいですか?
しんいちろう  やめろ!!
リンゴ     ……ごめんなさい、調子にのりました。昔、あなたと一緒に遊んだんです
         よ。二人とも持ってて、お互いの家に行って対戦して。すごく楽しかった
         んです。あいつ昔の物捨てられないタイプだから、どこかにあるんじゃな
         いかなって。そしたらしんいちろう君も…
しんいちろう  黙りなさい。
リンゴ     ………
しんちいろう  左の押入れの下の段の手前の段ボールの一番上です。
リンゴ     ……え?
しんいちろう  準備。
リンゴ     …はい。

           大戦略の音。
           ゲームする。
           盛り上がる。
           クリアする。

リンゴ     やったー!!やりましたよ、世界征服です!
あきら     ……元気だな。
リンゴ     元気です!これじゃ駄目ですか!?
あきら     なにが?お前未だにこんなんやってんのか?しかもひとんちで。
リンゴ     え?
あきら     てか、これどっから出してきた?ったくひとの思い出勝手に漁るなよな。
リンゴ     あきら?
あきら     あ、まさか奥の段ボール開けてないよな?開けたらほんとに怒るぞ。おい。
         分かったのか?分らないのか?
リンゴ     分かんない。
あきら     分かって!
リンゴ     分かんない!どうして!?満足なの?こんな簡単に消える人格なんて聞い
         たことない。
あきら     人格?
リンゴ     あんたほんとに人格分裂してんの?ゲームなんて一人でやればいいじゃない。
あきら     ゲーム?
リンゴ     大戦略。覚えてるでしょ?昔さんざんやった。
あきら     これお前のだろ。
リンゴ     あんたのよ。
あきら     俺こんなの持ってねえよ。てか、やったこともねえ。
リンゴ     は?
あきら     面白いのか?なんか画像がちゃっちそうだな。
リンゴ     やったことないって?
あきら     何メガだこれ?
リンゴ     やったことないって!!
あきら     なんだよ。だから俺こんなゲーム知らねえって。
リンゴ     やったじゃない子供の頃。毎日。学校から帰ってきてすぐ。
あきら     知らねえよ!
リンゴ     …大丈夫?
あきら     お前が大丈夫か?
リンゴ     ………
あきら     それより人格、消えたのか?しんいちろうって奴。陰気な奴だったよな。
リンゴ     …あきら。私今日はもう帰る。明日、少しテストをしましょう。
あきら     テスト?えー。
リンゴ     …バイトには行かないように。

           暗転。
           「翌日、事件は更に進展しました。」
           呼び鈴。

かずとし    はい。

           現在の人格はかずとし。
           急いでドアを開けにいく。
           そこにはリンゴが立っている。

かずとし    こんにちは。
リンゴ    ……
かずとし   あれ?今日はスーパーの袋持ってないんだね。どうぞ。
リンゴ    かずとし…君?
かずとし   はい。

          リンゴ、溜息をつきながら部屋に入る。
          手には、スーパーの袋を持ってはいないが、スケッチブック。
          本当はあきらにテストをしたいのだが、かずとしの頭を殴るのは気がひけた。

かずとし   お茶でも淹れようか。
リンゴ    あ、私やるから休んでいてください。
かずとし   いいよ。なんだか今日はとても体が軽いんだ。僕だってお茶くらい淹れられ
        る。任せといて。
リンゴ    …じゃあお願いしようかな。
かずとし   よーし。

          かずとし、お湯を沸かす。
          
かずとし   それなに?スケッチブック?
リンゴ    え?ええ。
かずとし   リンゴちゃん、絵を描くんだ?
リンゴ    いえ、私は描かないですよ。
かずとし   じゃあなんで?
リンゴ    ああ、これはですね……

          リンゴ、少し考える。

リンゴ    かずとし君に描いてもらおうと思って。
かずとし   僕が?
リンゴ    (頷く)

          かずとし、ちょっと嬉しそう。

かずとし   やった!絵なんて描くの久し振りだ。

          リンゴ、スケッチブックとクレヨンをかずとしに手渡す。

かずとし   何描いてもいいの?
リンゴ    うーん、描いてほしいものもあるんだけど、描きたかったら好きな絵描いてどうぞ。
かずとし   よーし!

          かずとし、クレヨンを取り出し描き始める。
          リンゴ、資料を取り出し確認する。
          今回選んだ、バウムテストと呼ばれる絵を描かせて、現在の精神状態を分析する、
          対多重人格者に有効なテスト方法だ。
          お湯が沸く。

かずとし   あ。
リンゴ    いいですよ、私がやりますから。
かずとし   ありがとう。

          リンゴ、お茶を淹れる。

リンゴ    どうぞ。
かずとし   ありがとう!

          夢中で絵を描くかずとしをしばらく眺めるリンゴ。

リンゴ    ねえ。かずとし君ってさ。
かずとし   うん。
リンゴ    いくつだっけ?
かずとし   僕?言わなかったっけ?
リンゴ    年齢は聞いてないんだ。
かずとし   同い年だよ。リンゴちゃんと。
リンゴ    私と?
かずとし   うん。
リンゴ    私いくつか知ってるの?
かずとし   うん。
リンゴ    教えたっけ?
かずとし   教わってはないけど。
リンゴ    ……いくつ?
かずとし   僕の年齢?
リンゴ    私の年齢。
かずとし   ………

          かずとし、絵を描く手を止める。

かずとし   18歳。

          リンゴ、動きが止まる。そして思わず吹き出してしまう。

リンゴ    18歳!?私が!??
かずとし   ………
リンゴ    あははは!
かずとし   何で笑うの?
リンゴ    あ、ごめん。だって、18って高校生だよ?
かずとし   うん。
リンゴ    私、高校生だと思ってたの?
かずとし   そうだよ。
リンゴ    えー、そんなに若く見えるかな?
かずとし   見える。
リンゴ    ほんとに!?ありがとう!
かずとし   だって、高校生でしょう。
リンゴ    もういいから。
かずとし   高校三年生。もうすぐ卒業でしょう。
リンゴ    卒業?
かずとし   あと一ヶ月。
リンゴ    かずとし君?
かずとし   ………
リンゴ    ……かずとし君も18歳なの?
かずとし   うん。
リンゴ    高校生?
かずとし   だけど今は学校行ってないんだ。
リンゴ    ………
かずとし   本当は行きたいんだけどね、でもバイトだけで我慢する。
リンゴ    そっか。バイトは駄目だけどね。
かずとし   あ、しまった。
リンゴ    それじゃ、絵を描いてみようか。
かずとし   もう描いてるよ。
リンゴ    私がお題を出すから、それに従って描いてみて。
かずとし   クイズ?
リンゴ    そんな感じ。
かずとし   楽しそう!

         かずとし、次のページをめくる。